本稿では焼結の重要な初期段階である核生成と、それに関連する臨界半径について解説します。

核生成とは何か(定性的な説明)

核生成は新たな相が微小な領域で自発的に形成される相転移を指します。
(相とはそれ自体が均一で、系の中で区別される部分のことです。)
相転移は系の自由エネルギーが最小となる方向に進行します。
たとえば過飽和状態では、系は高エネルギー状態(準安定状態。不安定だけど安定に見える)にあり、
自由エネルギーを低下させるために新たな相(核)が生成されます。

(下記の通り、平衡状態を経て核生成が始まりますがこのことは狭義での核生成とも言われます。
一方で、核が生成した後、その核の存在影響を受けて進む核生成も核生成と呼ぶことがあります。
前者を一次核化あるいは一次相転移、後者を二次核化あるい二次相転移などと呼ぶこともあります。)

臨界半径

核生成のモデルにおいて核が成長するか消滅するかは、そのサイズに依存します。
特定の半径を超えると、核は安定して成長しますが、それ未満では消滅します。
この特定の半径のことを臨界半径といいます。

自由エネルギーと臨界半径の関係

核生成における自由エネルギー変化ΔGは、以下の式で表されます:

ΔG = (4/3)πr³ΔGv + 4πr²γ

  • ΔGv:体積自由エネルギー変化
  • γ:表面エネルギー
  • r:核の半径

この式から、ΔGについて半径が小さいときは表面エネルギーの影響を受け易く
半径が大きくなるに連れて体積の影響を受け易くなることが見てとれます。
また、自由エネルギーΔGが極大となる(dG/dr=0) 半径、臨界半径 r* は以下のように求められます。

r* = -2γ / ΔGv

ΔGv が負であるため、r* は正の値を持ちます。
この臨界半径を超えると(体積項の寄与が大きくなるので)核は自発的に成長します。

液相焼結における核生成

まず原料系を設計した後加熱をしていくと、系に中間体や液相が生じます。
加熱などでさらにエネルギーを系に加えていくと系が最もエネルギーの低い状態に組み直されます。
組み直しの延長で過飽和状態が系の部分や全体に生じたり、平衡状態を保ってはいる中で確率的に「ゆらぎ」として過飽和状態となったりします。
過飽和状態を形成した後は冷却等での平衡からズレが生じ、かつ上記の古典的な核生成理論では臨界角を超える条件のとき核生成が始まります。

固相焼結における核生成

固相反応焼結では、液相を介さずに固体同士の接触点で反応が開始され、核が生成されます。
この場合、過飽和という概念は適用されませんが、古典的な核生成理論としては核生成と成長のメカニズムは類似しています。

参考文献

  • 高分子側鎖のエントロピーが結晶表面に与える影響, 高分子論文集, 65(3), 2008. リンク