本稿では、上記プロセスのうち「核生成」以降の結晶成長に焦点を当て、その代表的なモデルであるSOSモデル、コッセルモデル、BCF理論の3つを概説します。
これらのモデルは、微視的な構造を通じて結晶成長がどのように進行するかを予測するうえで、理論的な基盤です。
実際の製造現場でも、結晶構造の予測や制御は製品の品質や歩留まりに直結する要素であり、工程設計や熱処理条件の最適化において重要な視点です。
結晶成長の全体像
結晶が成長する過程は、材料の最終的な構造や特性を大きく左右します。
とくに焼結プロセスでは、原料が部分的または完全に融解し、中間体を経て最終的な結晶構造を形成します。
以下は、一般的な焼結における結晶成長の流れを示したものです:
- 原料系の設定
- 加熱後、部分または全体の融解、中間体の生成
- 熱力学的平衡状態への到達
- 過飽和状態への到達、反応界面における物質拡散
- 核生成(新たな結晶の種の出現、相転移)
- 結晶成長(核の発達と構造化)
1. SOSモデル(Soid-on-Solid):固体表面上でのみ成長が進む
SOSモデルは、結晶成長において原子や分子が既存の結晶表面に垂直方向に積層されることのみを許容する単純化モデルです。
このとき、空間中に浮遊する成長単位が既存表面に吸着・拡散した後、他の原子と結合することで構造が発達していきます。
このモデルでは、成長面が階段状や傾斜をもたず、空隙形成(空洞や表面下への原子侵入)を排除しているため、表面粗さやエネルギー障壁の影響を限定的に扱えます。
実際の蒸着や気相成長法(CVD、PVDなど)においては、このモデルが基礎的仮定として利用されることも多く、解析的手法との親和性が高い点が利点です。
2. コッセルモデル:階段構造による成長の幾何学的な影響
コッセルモデルでは、結晶は立方体ユニットを階段状に積み重ねる形で成長すると仮定されます。
これにより、結晶表面には「テラス(平坦部)」「ステップ(段差)」「キンク(欠陥的突起部)」の3つの領域が定義され、原子の吸着・拡散・定着挙動を幾何学的に記述できます。
このモデルは、原子の結合数が多いほど安定になるという単純なエネルギー最小化の原則に基づいており、各部位での吸着確率を幾何学的に決定します。
特に、キンクは吸着原子にとってもっとも安定な位置であり、ここでの吸着は活性化エネルギーが最も小さいとされます。
実際の結晶成長では、このような微細構造に起因する成長速度の非一様性が、結晶の外形や転位形成に大きく関与します。
コッセルモデルは、理想構造からの逸脱や不連続性の影響を定性的に把握する基盤ともなります。
3. BCF理論:らせん転位による継続的な成長促進
BCF理論(Burton-Cabrera-Frank理論)は、結晶中に存在するらせん転位が常に新たな成長起点を提供する仕組みを明示的に説明した理論です。
転位端ではテラスが連続的に更新され、キンク部が常に供給されるため、外部からの成長単位が定着しやすい条件が維持されます。
これは、理想平坦面に比べ、エネルギー障壁が低いため、成長がより安定かつ持続的に進行することを意味します。
この理論により、平衡条件に近い低過飽和状態でも成長が起こる理由が説明され、
単結晶育成やエピタキシャル成長などの制御において、欠陥構造をむしろ積極的に活用する設計指針が得られます。
BCF理論は、コッセルモデルをベースとしつつ動的過程を組み込んだ発展形です。
4. まとめ:結晶成長モデルの比較と応用の意義
SOS、コッセル、BCFという3つのモデルは、それぞれ異なる前提と現象に注目していますが、
共通して「どこに」「どうやって」成長単位が取り込まれるかを記述する理論枠組みです。
SOSは表面吸着のみを扱う抽象モデル、コッセルは空間構造を持った吸着部位の安定性、BCFは欠陥(転位)を活用した動的成長の継続性に注目しています。
これらを理解することで、実験結果の背後にある成長メカニズムを把握しやすくなり、装置条件や原料設計へのフィードバックが可能となります。
特に焼結や薄膜形成の高度化において、表面構造とエネルギー状態の対応関係を正確に捉える視点は不可欠です。
[記事]セラミックス焼結を支える「平衡」── 熱力学から読み解く材料設計
参照情報
[1] “The Growth of Crystals and the Equilibrium Structure of their Surfaces”