セラミックス焼結工程の全体像:原料から検査まで

導入:セラミックス焼結工程の目的と全体像を概観する

セラミックス製造の核心工程である「焼結」は、粉末状の原料を高温で加熱して粒子同士を接着・緻密化し、所望の特性を持つ多結晶体へと変換するプロセスです​。
焼結工程を経ることで、粉末体が種々の特性を踏まえたセラミック材料へと生まれ変わります。
焼結条件の制御は材料の微細構造等を制御できます。
セラミックス製造では、原料調製・成形・焼成・後処理・検査という一連の工程が密接に連携して製品品質を決定します。
それぞれの工程で適切な管理を行うと共に一貫した品質管理が不可欠であり、
特に焼結(焼成)工程はセラミックス製造全体のCO2排出量の多く占めるエネルギー集約的で、品質だけでなく環境・コスト面でも最適化の重要性が高い工程です。
たとえば脱脂工程・焼成工程でセラミックス製造工程全体の70%程度に上ることが国内外で報告されています[1]、[2]。

原料調製工程:粉砕、混合、造粒などの目的と品質影響要素

高品質なセラミック製品づくりは原料粉末の調製から始まります。
まず、粒径を小さく均一に揃えることは重要です。
一般的に原料粒子が小さく丸く大きさが揃っているほど、焼結後のセラミック製品は高硬度・高強度になりやすいことが知られています(ただし制御できることは前提となります)​。
次に特に複数の原料粉や添加剤を配合する場合、混合工程で成分をムラなく均一に分散させ流ことも重要です。
混合が不十分だとたとえば原料組成に偏りが生じ、後工程で成形品の流動性不良や焼成時の収縮ムラによる割れ・変形など様々な不良の原因になります。
均一混合のためにボールミルやブレンダーなど混合方法をよく選定の上で十分な時間をかけて攪拌し、必要に応じて分散剤を加えて凝集を解消します(混合と言いながら混合以上の影響があることもあり注意が必要です)。
その他、粉末を金型成形しやすくするため造粒(グラニュレーション)を行うことは多いです。
造粒は原料を微細化しする粉砕と組み合わされることも多いです。
また、スプレードライ(噴霧乾燥)法によって粉末を粒状に固めて乾燥させることも有用です。スプレードライで得られた造粒粉体は球形で流動性に優れ、粒度分布も鋭く安定したものとなることが多く、
成形時の充填密度が均一化し焼結後の収縮むら低減に寄与します。
このように、粉砕・混合・造粒といった原料調製工程の出来栄えが、後工程での成形性や焼結体の微構造に直接影響するため、原料段階からの品質管理が極めて重要です。

成形工程:乾式・湿式成形の種類、選定基準、製品精度やコストへの影響

原料が適切に準備できたら、粉末材料以外は次工程は成形工程で製品形状の原型(グリーン体)を作ります。
グリーン体は焼成前の中間製品であり、その良否が最終製品の品質を大きく左右します。
成形方法は、大きく乾式成形と湿式成形に分類されます。
乾式成形では、粉末状の原料を金型に充填し、圧力をかけて成形します。
代表例はプレス成形で、シンプルな形状の部品を高速かつ高精度に大量生産できる点が特徴です。
また、粉末に有機バインダーを加えて加熱・混練した原料を金型に射出する射出成形(CIM)は、複雑形状でも寸法精度の高い製品を得やすい反面、金型費用や脱脂工程に時間とコストがかかるという課題があります​。

一方、湿式成形は粉末を水や有機溶媒に分散させたスラリー(懸濁液)状の原料を用いる方法で、乾式成形では困難な複雑形状や大型製品の成形に適しています。
代表的な湿式成形法には、スラリーを石膏型に流し込んで成形する鋳込み成形(スリップキャスティング)、スラリーを均一な厚みで流延するテープ成形、長尺物や中空管の成形に適した押出成形などがあります​:。
湿式では流動性が高いため、複雑な金型への充填性に優れる一方、乾燥時の収縮や反りを抑えるには工程管理が重要です。
脱水や乾燥の過程での形状保持が製品品質に直結するため、成形のみならずその後の乾燥工程も含めた制御が求められます。

このように、部品の形状、寸法精度の要求、生産数量などに応じて、成形法を適切に選定することが重要です。
圧力、保圧時間、スラリー粘度、乾燥速度などの条件を制御し、バラツキの少ない高密度グリーン体を得ることは、焼結体の品質安定化に不可欠です。

焼成工程:常圧・加圧焼結(HP/HIP)、緻密化の制御因子と品質への影響

成形体が所定の形状に仕上がったら、いよいよ焼成炉での焼結工程です。
炉内で高温加熱することで原料粒子間の結合が進み、空隙が消失してセラミックスが緻密化します。
しかし、焼成条件次第で粒子の成長や気孔の残存状態が変化し、最終製品の密度や強度、寸法精度に大きな影響を及ぼすため、焼成工程では温度プロファイルや雰囲気などを精密に制御する必要があります。​
まず脱脂段階では成形体中の水分や有機バインダーを(多くの場合は)ゆっくりと熱分解・除去し、続く高温保持段階で高温保持することで粒子間の結合と収縮を促進して所望の密度と微細構造を形成します​。
最後の冷却段階では素材に応じて適切な速度で冷却し、内部応力の発生や亀裂を防ぎます。
焼成工程では昇温速度、最高温度、保持時間、炉内雰囲気(大気・真空・還元性など)といった因子を組み合わせて焼結挙動を制御し、気孔率や結晶粒径をコントロールします​。
さらに高度な緻密化手法として、加圧力を併用する焼結も行われます。
代表的なものがホットプレス焼結(HP)と熱間等方加圧焼結(HIP)です。
ホットプレス法では黒鉛製の金型内で成形体に数十MPa程度の圧力をかけながら加熱焼結するため、高い焼結密度を達成できます。た
だし円盤や直方体など単純形状しか同時焼結できず、しかも緻密化後は硬くなった素材の機械加工が必要となるため手間とコストが増大し、一般の工業プロセスではあまり利用されません。
一方、HIPは焼結後に高圧ガス中で製品全体へ等方的に数百MPaの圧力を加える方法で、複雑形状でも内部の残留気孔を圧潰して理論密度に近い高密度化が可能です。
しかし専用設備(高圧容器・加熱炉)の初期投資が極めて大きく、特殊プロセスです​。
このように、常圧焼結とHP/HIPにはそれぞれ長所短所がありますが、いずれにしても焼成条件の最適化によって粒子間の十分な焼結(結合)と過剰な粒成長の抑制を両立させ、所望の微構造を確保することが焼成工程の目的となります。

後処理工程:研削・接合・レーザー処理など、製品性能向上に直結する後処理の重要性

焼結が完了したセラミック部品は、形状と特性を仕上げるため必要に応じて後処理(加工)工程を施します。
焼成後の製品は焼成中の収縮や表面状態の変化により、そのままでは設計寸法や表面品質を満たさないことが多く、研削や研磨によって寸法公差内に仕上げたり、所望の表面粗さ・平面度を確保したりします。
セラミックスは硬く脆い難加工材の典型であり、ダイヤモンド工具を用いた研削加工でも微小亀裂(クラック)が発生しやすいため、切込み量や送り速度、冷却液などを最適化して加工ダメージを最小限に抑える必要があります。
適切に研削された部品は、高精度な寸法と良好な表面品質を備え、強度信頼性も向上します。
また、セラミックス部品を他の部材と組み合わせて製品機能を発揮させる場合には接合技術が重要です。
例えばセラミックスと金属を一体化するには、セラミックス表面に金属皮膜を施すメタライズ処理を行った上でろう付け接合する手法が広く用いられており、これにより両者を強固かつ高い気密性で接合できます。
機械的にボルトや接着剤で固定する方法もありますが、熱応力や密封性の要求が高い用途では、金属-セラミックス接合用の活性金属ろう材を用いた真空ろう付けなどが選択されます。
さらに近年ではレーザー加工技術の進展により、セラミックス材料に対する微細穴あけやスリット加工、表面への微細パターン形成が可能となっています。
レーザー加工は非接触かつ高エネルギー密度の光を利用するため加工精度が高く、従来の機械加工のようなバリやカケ(微小欠け)を抑制できる利点があります。
その結果、追加の仕上げ処理を省略でき、熱変形も少ない安定品質の加工が実現します。
このような後処理工程を適切に施すことで、セラミックス製品の最終的な寸法精度・表面品質・接合信頼性が確保され、設計通りの性能を発揮できるようになるのです。

検査・評価・出荷:寸法、密度、機械的・熱的・化学的性能などの評価基準と検査方法

全ての材料調製工程を経たセラミックス製品は、出荷前に所定の品質基準を満たしていることを検査・評価します。
まず基本的な検査を実施します。たとえば形状寸法について、マイクロメータや三次元測定機によって重要寸法を測定し、図面公差内に収まっているか確認します。
焼結に伴う収縮により寸法変化が生じるため、必要に応じて成形時に補正量を見込んで設計します。
密度(比重)は製品の緻密さを示す指標であり、完成品を液体中に沈めて体積変化を測定するアルキメデス法などで評価します​。
相対密度(理論密度に対する割合)が高いほど気孔が少なく強度や耐久性に優れるため、重要部品では精密な密度管理が行われます。
また、材料の構造を評価(分析)します。このとき表面と内部は分けて考えます。
たとえば基本的な結晶構造をX戦回折分析、粒子の形や大きさを抜き取り検査的に電子顕微鏡で、
あるいは材料組成の分析(蛍光X線分析やICP発光分析)や透過型電子顕微鏡による内部欠陥の検出などは挙げられます。
他、製品個別の特性評価を実施ます。例えば機械的特性(曲げ強さや硬さなど)や熱的特性(熱伝導率や熱膨張など)を評価します。
曲げ強さはJIS R 1601に準拠した3点または4点曲げ試験で測定され、セラミックスでは破壊確率のばらつきを評価するため多数の試料でワイブル統計解析を行うこともあります。
ビッカース硬さ試験ではピラミッド形の圧子を押し当てて表面の硬さと耐摩耗性を調べます。
熱的特性としては、レーザーフラッシュ法による熱伝導率・熱拡散率の測定や、熱膨張計による熱膨張係数の測定が代表的です。
急冷急熱に対する熱衝撃性は実使用条件を模したサイクル試験で評価します。

まとめ:各工程の連関性と一貫品質管理の必要性、工程最適化による競争力強化の視点

以上、セラミックスの焼結製造工程を原料から検査まで順に見てきました。
各工程は独立しているようでいて深く連関しており、前工程の品質が次工程の効率や製品特性に影響を与えます。
例えば原料粉末の粒度分布や混合状態は成形体の密度均一性を左右し、成形体の密度や寸法精度は焼結後の収縮挙動や強度に反映されます。
焼結条件で形成された微細構造は、後処理での加工性や最終的な性能安定性に影響します。
このため、全工程を通じた「一貫品質管理」の体制を敷き、設計段階から原料・成形・焼成・加工・検査までを見据えて品質目標を設定することが重要です。
特にセラミックス製造では材料特性上ばらつきが生じやすいため、各段階で統計的な工程管理とフィードバックを行い、不良の兆候を早期に検出して対策する仕組みが求められます。
工程全体の最適化を追求することは、歩留まり向上やエネルギーコスト低減にも直結し、カーボンニュートラルやコスト競争力強化といった経営課題への貢献にもなります。
実際、製品設計においては可能な限り成形のみで最終形状に近づけて後工程の研削工数を削減する、複雑形状が必要な場合は射出成形や積層造形技術を検討する、といった具合に工程全体を俯瞰したコストダウンの工夫が行われています​。
セラミックス製造企業にとって、各工程ごとの専門性に特化した人員確保、一方で工程横断的と品質保証の仕組みの構築と運用は他社との差別化要因となり得る重要な競争力です。

参照文献等

[1] https://www.nedo.go.jp/content/100978016.pdf  p16
[2] https://climate.ec.europa.eu/system/files/2016-11/bm_study-ceramics_en.pdf p5