技術士事務所ALEITAは、主にセラミックスの焼結プロセスに関して製造業の皆様が直面する課題に寄り添ってご支援しております。
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導入

セラミックスは絶縁性、耐熱性、化学的安定性に優れており、多くの高機能部材に使用されています。
一方で、熱伝導率が金属に比べて低いことが多く、発熱体の冷却設計や熱拡散制御が求められる装置では課題となり得ます。
特に、熱伝導率は単なる材料名だけでなく、その微細構造や使用温度環境により大きく変動します。
これらの変動特性を正確に理解することは、セラミックス部材を導入する際の材料選定やプロセス設計において、合理的な判断を行う上で不可欠です。

第1章:熱伝導率の概要

熱伝導率(thermal conductivity)は、単位温度差あたりの熱の通りやすさを示す物性値であり、W/m·Kという単位で表されます。
この値は製品の温度均一性や冷却性、さらには熱応力発生の抑制に関わる重要な指標です。
そのため製造工程や製品用途によっては、熱伝導率の違いがある部材への熱履歴に影響するため、寿命や安全性に直結する場合があります。

金属材料では、自由電子が熱輸送の主因であるため、銅(約400 W/m·K ~1000℃)やアルミニウム(約235 W/m·K ~600℃)など、非常に高い熱伝導率を示します。
一方で、セラミックスでは主に格子振動(フォノン)によって熱が運ばれます。そのため、結晶構造や欠陥によるフォノン散乱が熱伝導率に大きな影響を及ぼします。

代表的な高熱伝導性セラミックスとしては、窒化アルミニウム(AlN:約200W/m·K前後  常温)や炭化ケイ素(SiC:約200 W/m·K前後 常温)などが挙げられます。
これらは電子部品の例えばヒートシンクとして活用されており、
熱マネジメントが製品性能のボトルネックとなる場面において、熱伝導率の目標値設計の初期段階にも用いられています。

第2章:熱伝導率へ影響を与える微構造因子

セラミックスの熱伝導率は、同一の化学組成であっても、その微細構造によって大きく異なります。
単結晶はフォノンの散乱要因が少ないため高い熱伝導率を示しますが、多結晶焼結体では粒界が散乱源となり、熱伝導率が著しく低下します。
さらに、気孔や非晶質相の存在もフォノンの流れを妨げるため、全体としての熱輸送性が低下します。

たとえば、アルミナ(Al2O3)の単結晶は約35 W/m·K (常温) の熱伝導率を示しますが、気孔が多い成形体や未焼結状態では10 W/m·K以下になることもあります。
焼結プロセスでは、焼結の良悪 (粒成長の促進、気孔率の低減、粒界の平滑化など) が熱伝導率向上に貢献します。

また、粒子径の微細化は成形密度を高める効果がある一方で、過剰に微細化すると粒界の増加によりフォノン散乱が激しくなり、熱伝導率が逆に低下する場合があります。粒径と熱伝導率の最適範囲があることが報告されることもあります。さらに、粒界への不純物偏析や二次相の析出も熱伝導性の低下要因となるため、構造制御の最適化が求められます。

第3章:温度依存性と使用環境での注意点

セラミックスの熱伝導率は、温度が上昇するにつれて一般的に低下します。これは、温度上昇により格子振動が活発化し、フォノン散乱が増加するためです。
たとえば、窒化アルミニウム(AlN)や炭化ケイ素(SiC)といった高熱伝導率材料でも、600℃を超えると熱伝導率が30〜50%程度低下することがあります。

また、温度による結晶構造の変化、すなわち相転移が起こるセラミックスでは、熱伝導率の変動がより顕著です。
たとえば、ジルコニア(ZrO2)では温度によって単斜晶から正方晶、次いで立方晶へと構造変化が生じ、これに伴って熱伝導性も大きく変化します。
これらの性質を踏まえると、材料の選定や設計においては常温での物性値ではなく、実際の使用温度下での性能を考慮した評価が不可欠ということがわかります。

特に、温度勾配の大きな部位や加熱・冷却の繰り返しがある環境では、「熱伝導率の安定性」が製品の信頼性や寿命に大きく影響します。
こうした環境下では、材料の熱的安定性だけでなく、熱応力の緩和設計やシミュレーションに基づく最適設計も必要です。

まとめ

セラミックスの熱伝導率は、原子構造や化学組成に加え、微細構造や使用温度によっても大きく変化します。
したがって、単なる材料名で評価するのではなく、焼結体の密度、粒径分布、気孔率、相構造、そして使用温度下での物性変化までを含めた総合的な判断が求められます。
熱伝導率の正確な理解と適切な制御は、製品の熱設計や安全性確保において極めて重要であり、設計・製造両面からの技術的対応が必要です。

参照

AIST公開データベースn  など