高年齢労働者の比率が年々高まる中、「転倒」や「無理な動作」による労働災害が深刻な課題となっています。
これらの災害は、ベテラン作業者の技能継承を断絶させるだけでなく、現場の生産性や士気にも影響します。
本稿では、高年齢労働者に特有のリスクに焦点を当て、実務に活かせる安全対策を紹介します。
1. 高年齢労働者に特有のリスクとは
加齢により、筋力低下・関節の柔軟性の低下・視力や聴力の衰えが生じ、建設業では特には以下のような災害リスクが顕著になります(エイジアクション100):
- 転倒、墜落・転落: 段差・足場・仮設階段でのバランス喪失
- 動作の反動・無理な動作:腰痛や捻挫、腱鞘炎など反復負荷による障害
- 熱中症: 暑熱屋外環境での作業による体調不良とその重篤化
とくに女性労働者では、60代以上になると転倒災害発生率が20代の約15倍(平均2.35 vs 0.15)に上昇し、「動作の反動・無理な動作」も75歳以上で0.55(千人率)と高水準です(出典:労働者死傷病報告 令和4年)。これらの傾向は、筋力や柔軟性の差、作業環境との相性、申告傾向の違いなど複数の要因が関係しています。
2. 木造現場で必要な作業環境・設備の見直し
墜落・転落については、足場に関する法律が厳格化されている中、少なくとも下記の配慮は必要です:
- 滑り止め材・段差解消・十分な照度確保
- 体勢を変えやすい作業スペースの確保(中腰作業の短縮)
- 昇降設備の安全確認(仮設階段、手すりの固定)
作業位置に合わせた足場の段取り直しも、高年齢作業者には特に有効です。
また、足場以外にも滑りやすい床材や不安定な仮設板など、日々の細かなチェックと是正が転倒防止に直結します。
熱中症についても若者と同様に、それ以上の細やかな対応が管理者、労働者双方に求められます。
[記事]熱中症予防 (戸建建設現場での実務対応と法改正(2025.6)のポイント)
3. 教育と作業分担の再設計
「ベテランだから大丈夫」は禁物です。高年齢者向けには次のような工夫が重要です:
- 図解・動画中心の安全教育と定期的なリフレッシュ
- 役割分担の明確化と声かけのルール化
- 「エイジアクション100」チェックリスト(リンクp15-20)の活用(中災防)
さらに、女性高年齢労働者の体調変化や生活環境をふまえた労務配慮(トイレ、更衣スペース、ヒートストレス対策)も「やる気」と「定着」につながります。
高年齢労働者に限らず、トイレの位置は目立たないように配慮し、清潔に、花などが飾り、
休憩スペースは「横臥」できるよう、畳、カーペットが敷かれているとホッと一息つけます。
遠慮が災害の引き金になることもあるため、個別の人間関係を超えた声かけ文化の醸成も重要です。
まとめ
高年齢労働者の活躍とその活躍を支える取り組みは、現場にとって「安全対策」と「技能継承」を両立させるチャンスでもあります。
厚労省「エイジフレンドリーガイドライン」や中災防のチェックリストなども活用し、誰もが安心して働ける現場づくりを継続的に進めましょう。