技術士事務所ALEITAは、主にセラミックスの焼結プロセスに関して製造業の皆様が直面する課題に寄り添ってご支援しております。
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導入

静電チャック(Electrostatic Chuck, ESC)は、半導体製造プロセスにおいてシリコンウェハを高精度に保持するための重要なデバイスです。
真空中での成膜やエッチングなど、各種プロセスに対応するため、ESCは接触圧を用いず静電力など非接触力でウェハを吸着固定する特性を備えています。

その中核となるのがセラミックス基板です。
ESCの性能や耐久性は、この部材の品質に大きく依存します。
本記事では、各工程が製品品質やコスト構造にどのように影響するかを整理し、外注や設備投資の判断する際の基本情報としてお役立ていただける内容としています。

セラミックス材料の選定と粉末処理

静電チャックの基板材料として多く使用されているのは、アルミナ(Al₂O₃)と窒化アルミニウム(AlN)です。
アルミナは安定した絶縁性とコストパフォーマンスを有し、比較的扱いやすい素材です。
一方、AlNは200 W/m·K (常温) 程度の高い熱伝導性を持ち、熱応答性が求められる工程で重宝されています。
ただし、AlNは焼結が難しく、製造条件の最適化が不可欠です。

粉末処理においては、粒度分布や粒子形状、混合の均一性は焼結体の品質に大きく影響します。
特にAlNでは、比表面積の微調整によって焼結挙動や反りが大きく変化します。
1例として、原料と焼結体の関係について、AlN原料の粒径と焼結温度の関係を示唆する報告例があります[1]。

成形と脱脂・焼結工程

セラミックス基板の成形方法としては、CIP(冷間等方圧プレス)やスリップキャスティング(鋳込み)などがあります。
CIPは圧力が等方的に加わるため、割れや寸法ひずみを抑えた高密度な成形が可能です。
一方、鋳込みは複雑形状の製品や試作に適しており、小ロット対応にも柔軟性があります。

脱脂工程では、成形時に使用された有機バインダーや助剤を加熱分解により除去します。
残留物が多い場合、焼結中にガスが発生し、気孔やクラックの原因となります。
焼結工程においては、AlNの場合1800℃前後の高温かつ窒素雰囲気での処理が一般的です。
酸素の混入を防ぐため、炉内の雰囲気管理と温度制御の精度が求められます。

焼結時の昇温プロファイルや炉内温度分布のばらつきは、反りや強度ばらつきの発生原因になります。
加熱プロファイルの調整によって酸素濃度を低減できた事例を報告しています[2]。

電極形成と接合処理

セラミックス基板に導電パターンを形成することで、ESCとしての静電保持機能が発現します。
導電層の形成方法には、スパッタリング、スクリーン印刷、レーザー加工などがあり、それぞれ適用範囲とコストに差があります。

量産品にはコストバランスのよいスクリーン印刷+焼成が多く採用されますが、膜厚の均一性には限界があります。
一方、スパッタリングはコストは高いものの膜厚制御やパターン精度に優れ、微細電極形成が必要な高性能ESCに用いられます。
さらに、レーザー除去による微細絶縁形成は、特に両面電極型などで有効です。
(スクリーン印刷法ではマスク位置(平面方向)、エッチング(全面処理による加工軸方向)でやや精度が下がります。)

また導電層とセラミックスの間には熱膨張係数の違いによる応力が生じます。
そのため、Ti/W合金やMo中間層を用いた応力緩和設計が重要になります。

平坦化・仕上げ処理と評価

焼結後のセラミックス表面は微細な凹凸や反りが残るため、ラップ研磨やCMP(化学機械研磨)による仕上げ処理が行われます。
ESCの性能として、Ra(算術平均粗さ)やTTV(面内厚さ変動)があり、サイズによりますが、Raは数十nm~数百nm、TTVはサブμm~μmが仕様として記載されています[3][4]。
最終評価では、絶縁耐圧試験(3〜5 kV)、リーク電流測定(nAレベル)、X線CTによる内部欠陥の検出などが行われます。
仕上げ工程はコスト比率が高く、前工程の出来栄えによって再加工の有無が決まります。
したがって、仕上げだけでなく、材料選定から焼結までの一貫した品質管理が必要です。

まとめ

静電チャック用のセラミックス部材は、素材選定、粉末処理、成形、焼結、電極形成、平坦化、そして評価という多くの工程を経て製造されます。
それぞれの工程が製品性能や不良率に密接に関わっており、特にAlN系基板では高度な設計、工程制御と評価体制が求められます。

参照

[1]工芸研究所/東京工業大学

[2]産総研/三井化学

[3] Gripping Power

[4]NTK