フリックスボローの化学プラント爆発事故(1974年、英国)

事故概要

1974年6月1日、英国北東部のフリックスボローにあるナイプロ社のプラントで、
シクロヘキサンを酸化してナイロン原料を製造する過程において、致命的な爆発事故が発生しました。
28名がお亡くなりになり、周辺の住宅やインフラも大きな被害を受けました。

事故の直接的原因と背景

プラントの原料供給ラインにおける反応器の一基が点検のため停止され、それをバイパスする形で仮設配管が設置されていました。
(“このプラントには 6 基の反応器が直列に連結されていたが、老朽化した第 5 反応器を撤去し、第 4 反応器と第 6 反応器を配管で直接連結する改造が行われた”[2])
しかしこの配管には、圧力に耐えうる強度や、設計上の適正が欠けていたことが判明しています。
加えて、配管の接続部であるベローズは適切な方向に取り付けられておらず、検査も窒素による低圧試験で済ませていたため、漏れや破損のリスクが見逃されていました。

本配管が破断したことで大量のシクロヘキサン蒸気が漏れ、それが点火源によって爆発、いわゆる蒸気雲爆発(Vapor Cloud Explosion)となりました[1]。

深層的な原因と組織的要因

事故当時、現場の設計者は工場の床にチョークでスケッチして配管の位置を示すなど、設計業務が結果として簡易的に行われていたことが記録に残っています。
また、重要な判断権限を有する技師長が直前に退職していたことも、技術伝承やレビュー体制(技師長の権限が集中する体制であった可能性)における綻びを浮き彫りにしました。

さらに、仮設配管による運転は事故発生まで約2か月間続いており、事故当日も2回の異常停止を経た後に再稼働が行われています。
このような背景から、生産目標を背景とした経営面からのリスク評価にも課題があった可能性が高いといえます。

その後の影響

この事故は大量の危険物を保有する工場での事故であったことから、類似の災害を防ぐために、法整備が進められました。
また、上記の通り、変更管理 (設備変更) の重要性を技術者がそれぞれの現場で活かさせていただくための契機ともなりました。
さらに、蒸気雲爆発に関する工学的研究も進められ、爆発防止のための設計指針や避難基準が強化されました。

経営管理に求められる視点

この事故は、プラントの安全設計だけでなく、現場の判断、設計者の知見、そして組織構造そのものに大きな課題を残しました。
特に課長職のような中間管理職には、以下のような視点が求められます:

  • 短期的成功に惑わされず、リスクを評価し続ける姿勢
  • 現場の声と経営の意向をつなぐ橋渡し役
  • 設計・施工における技術的知見の可視化と継承

また、管理職自身が革新志向か保守志向かを自覚した上で、異なる性質を持つ補佐役を配置することで、偏りのない意思決定が可能となります。
経営管理においてはバランスは重要です。

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