製造業や建設業の現場は、高温、高所、重量物、有害物質などのリスク要素が複雑に存在しており、
組織的な安全管理体制やシステムの構築や運用が不可欠です。

労働安全衛生管理体制の基本構造

統括安全衛生管理者と安全管理者の役割

事業者は業種と規模に基づき統括安全衛生管理者および安全管理者、安全衛生推進者等を選任する必要があります(安衛法第10条、第11条)。
いずれも所管労働基準監督署長への届出が必要で、かつ代理者の選定が必要です。
ただし、所管労働基準監督署長による増員、解任の権限が外部(所管労働基準監督署長)に与えられているのは安全管理者のみとなります。

  • 統括安全衛生管理者:労働安全衛生全体の統括管理を行います。
    通常は工場長や事業場長など事業場のトップが兼務することが多いです。
    製造業では常時300人以上、建築業では常時100人以上の労働者数の規模が該当します。
  • 安全管理者:作業方法や安全装置や器具の点検をはじめ技術的事項の管理を担い、
    日々の巡視や記録、是正指示のほか訓練等を多義にわたる職務を実施します。
    50人以上の労働者数の規模の事業場で選任が必要となります。
    その他、規模に応じて専任の安全管理者を設置する必要があります。

作業主任者と作業指揮者

特定作業(有機溶剤、酸素欠乏、鉛など)では、法令に基づき作業主任者の配置が義務づけられています(安衛法第14条)。
作業主任者は法定の技能講習等の修了が必要であり、交替勤務の場合には各シフトごとに配置が必要です。
一方、作業指揮者は混在作業や重機作業において現場の進行と安全確認を行う役割で、
作業主任者と異なり法的な資格要件はないものの、実務上極めて重要な存在です。
(指定された作業に関する知識、経験を有することが必要となります。)

産業医と安全衛生委員会の機能

常時50人≦または100人以上≦(業種により異なります)の労働者がいる事業場では、産業医の選任および安全衛生委員会の設置が義務付けられています(安衛法17,18条)。
産業医は定期巡視やストレスチェックへの助言、面接指導を行い、職場の健康リスク管理に関与します。

安全衛生委員会(安全委員会、衛生委員会)では作業者代表と管理者が相互に現場での課題や対策を協議します。
安全管理規程などもこの場で審議され、いわば「現場と管理の橋渡しの場」としての役割があります。
単なる情報の伝達ではなく、管理部分と実務部分が双方向にやり取りするようにする必要があるため
管理者や議長のリーダーシップが求められるともいえます。

特定元方事業者(建設業、造船業)の安全衛生管理と評議会

特に建設業など複数事業者が関わる作業現場では、元方事業者に混在作業での労働災害を防止するため安全衛生評議会の設置が求められています。
元方事業者の体制では総括安全衛生責任者が設置されるとともに総括安全衛生責任者と安全管理者との間に元方安全衛生管理者が配置され、さらに細やかな管理が求められています。

労働安全衛生マネジメントシステム(OSHMS : Occupational Health and Safety Management System)

上記の労働安全衛生法に基づくボトムアップの手法に対して、トップダウンによる安全管理とも言えます。
これは要求事項にトップの方針表明が明記されていることなどからトップを安全管理へ明確に関係させることができる機能があると考えられるためです。
国際標準であること、マネジメントシステムの更新のたびに安全成績の改善されていることが報告されていることは特筆できると思います。
特に安全成績については、OSHMSの要求事項が、安衛法の規程を満たすことでその多くを満たすことができることもあることを考えると、PDCAの実施推進機能がある可能性があります。

リスクアセスメントの進め方と実務的視点

リスクアセスメントはOSHMSのPDCAサイクルにおける「Plan」に該当し、職場の危険有害要因の評価と対策を行う手法です。
科学技術の進展ほか職場環境の変化が大きい中において法律の性格上(事後対策)、
法対応型では十分ではないことは明らかであり、その意味においてリスクアセスメントは重要です。
以下の3ステップで進行します。

  1. 危険有害性の特定:
    設備、化学物質、作業手順などを客観的資料(SDS、災害事例、マニュアル)に基づき洗い出す。
    対象の系である設備や反応条件、あるいはこの対象の系と人の操作や接触などインターフェースの2観点で考えると整理し易いです。
  2. リスクの見積もり:
    頻度×重篤度のマトリックスでリスクの大きさを評価します。
  3. 対策の検討:
    本質安全→工学的対策→管理的対策→保護具の順に検討します。
    本質安全とは検討の設備を稼働しない、作業を実施をしない、やらないということがあり得るかという問いに関係します。
    工学的対策の多くはインターロック、防護カバーはじめ機械設備による対策と言えます。
    管理的対策には立入り禁止措置、マニュアル整備、有害物質へのばくろ管理など実作業への間接的作用による対策です。
    保護具は上記でリスクが許容できない水準である場合における実作業への直接的作用 (作業者の自助努力) です。

ここで混同されやすいのが危険予知活動(KY)とリスクアセスメントの違いです。
KYは作業者の経験を基にした暗黙知的活動である一方、リスクアセスメントは文書化・数値化された形式知をフルに活用します。
ベテラン作業者ほど「当たり前」になって見落としがちなリスクを、形式的に炙り出すという点でリスクアセスメントは非常に有効です。
一方で、形式知にはデータ化、情報化という観点でまだ制限もあるため、逆に暗黙知にて気づくことも多く、補完関係にあります。

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